第二章 企業取引の法務
第二節 契約の成立
レベル3 意思表示
契約が成立するための要件の1つとして「意思表示の合致」が必要ですが、実際の取引の場面では、この意思表示が問題となることがあります。ここでは、意思表示が問題となる場面について説明します。
2.瑕疵ある意思表示
他人に欺かれたり、脅かされたりして行った意思表示には、真意と表示行為との間には不一致はありません(意思の欠缺はありません)が、効果意思の決定にあたって、表意者の自由な判断がゆがめられています。このような意思表示を瑕疵ある意思表示といい、「詐欺による意思表示」「強迫による意思表示」の2種類があります。
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(前回からの続き)
②強迫による意思表示
他人に害意を示し、恐怖の念を生じさせる行為を強迫といいます。
強迫による意思表示をした表意者は、その意思表示を取り消すことができます(民法96条1項)。詐欺による意思表示の場合とは異なり、強迫による意思表示の場合には、善意の第三者に対しても取消しを主張することができます。
[民法(債権法)等の改正]
意思表示に関する改正
意思表示の瑕疵に関する規定については、次の改正が行われました。
・心裡留保について、判例法理を明文化して、心裡留保に基づく意思表示の無効は善意の第三者に対抗できない旨の規定を追加しました(改正民法93条2項)。
・錯誤に基づく意思表示の効果について、無効から取消しへと変更しました。そして、取消しの対象となる錯誤について、表示行為の錯誤および動機の錯誤(ただし、動機が表示されていたときに限る)であって、法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものと規定して、判例法理を明文化しました(改正民法95条)。なお、錯誤に基づく意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗できません(改正民法95条4項)。
・第三者による詐欺を取り消し得る場合について、相手方がその事実を知っていた場合のほか、知ることができた場合を追加しました(改正民法96条2項)。なお、詐欺による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗できません(改正民法96条3項)。